石を蹴る女

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「こんなちっぽけな川なんか描いて、何が楽しいんだろ。じゃ、行って来るね」 「……ああ」  毎度の事ながら、気の抜けた返事だった。  去年定年退職した父は専業主夫と化し、婚期を逃して何年にもなるキャリアウーマンの私の世話をしてくれていた。  三年前に他界した母の味付けのようにはいかないものの、それでも料理本を片手に鼻歌混じりで台所に立つエプロン姿の父は、如何にも楽しそうだった。  テレビを見ながら、自分で作った肴をつまみに、晩酌の燗をチビチビ遣っているそんな父との暮らしは、平凡ではあるが幸せだった。
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