小さな掌

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「友紀!今日、私の誕生日だったのに!」 夜中、千津から電話が掛かってきた。 「うるせぇな」 俺はこれから言う事の前置きのように強い口調で言った。 「な…何?逆ギレ?友紀…なんかおかしいよ?」 「別に…おかしくねぇよ。なぁ、千津。…俺ら、別れよう」 「な!何でっ!私、何か悪いことしたっ?!」 「別に…もう、飽きたんだよ。お前に」 沈黙が流れる。 やがて、ポツリと呟くように千津が言う。 「友紀はもう売れっ子だもんね…私、邪魔だよね…」 電話の向こうで、千津が鼻をすする音が聞こえる。 「もう…もう待たせてくれないんだね…」 「…ごめんな」 「ううん…頑張ってね、友紀」 プツンと電話が切れる。 当たり前だけど、千津泣いてたな…。 自分で決めたことなのに…少し胸が痛んだ。 千津と別れた次の日。 千津の親友の涼子から電話が掛かってきた。 「ちょっと友紀!あんた、千津に何言ったのよ!」 「う…うるせぇな、お前に関係ないだろ?」 「あるに決まってんでしょ!あの子、友紀とダメになっちゃったって大泣きして電話してきたのよっ!」 「…俺にはもう千津は必要ねぇよ」 「あの子はね!あんたが売れるまで待ってるって言ってて、ライブチケットもちゃんと自分で買って…あの子は…あの子は…。 あんたなんかもう一生誰とも付き合えないわよっ!死ね!バカッ!!」 一方的に言って涼子は電話を切る。 千津…チケットなんか俺があげるのに。 自分で買ってたのか…売り上げに少しでも貢献しようとしたんだな…。 そう言えばいつも俺が見える位置に千津がいた気がする。 朝早くから並んでチケット取ってたんだろうな…。 俺の気持ちは揺るぎ始めた…。 そして、ライブの日。 今日は今までにないほどデカいライブ会場だ。 司会もついてるイベントで客は満員。 俺達のテンションは上がりまくっていた。 いよいよ、俺達の番がきた。 客からは大歓声! ボーカルの俺は慎重にマイク高さを合わせて…深呼吸する。 前奏の間、俺は何気に客席を見渡す。 もちろん、千津の姿はない。 俺がデカい会場でライブやるって言った時、千津は目を輝かせて喜んでたっけ…。 自然と千津のことが頭に浮かんでくる。 そして…前奏が終わり、俺は歌いだす! …はずだったのに…。 なぜか…声が全くでなかった…。
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