"小説"は"現実"より奇なり

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 覇気のない雰囲気の五月が過ぎ、季節は梅雨に入ろうとしていた。  その日、学校は創立記念日で休校。その日僕はゆっくりとした午前を過ごした後、午後から加奈の買い物に付き合っていた。 「こんなのとかどうかなぁ?」  何点か服屋を回っている間に何度も聞いた言葉。 「ん?ああ、似合ってると思うよ。」  加奈はその言葉を聞いた後、うーん、と首を傾げて服を戻す。そしてまた別の服を広げては 「こういうのとか!!」 と、また僕の意見を聞いてくる。僕はそれに対して笑いながら 「うん、可愛いと思うよ。」 と、返事をする。繰り返し、繰り返し。幸せの繰り返し。こんな何でもない時間がずっと続けば良いと思っていた。無駄にも思える時間。もっと、もっと素敵な無駄を彼女と過ごしていたい。愛しい人との時間。いや、これからも沢山時間はある。うん、数え切れない程の時間を彼女と過ごそう。ずっと、ずっ、と…?  ザザッというノイズが僕を襲う。軽い頭痛。何故かはわからない。何か、大切なことを忘れている気がする。忘れている。忘れている。忘却。忘却、忘却、忘却、忘却、忘却、忘却、忘却、忘却忘却忘却忘却忘却忘却忘却忘却忘却。  ノイズと共に砂嵐に掛かっているような記憶の断片が脳裏を掠めていく。記憶の中での誰かとの電話。 『ああ、じゃあ2時くらいにね、迎えに行くよ。え?ああ、うん、大丈夫だよ。心配症だなぁ加奈は。』  記憶の中での自分の言葉。相手は、加奈…?迎えに、いく?何処、へ…?分からない。解らない。何が分からないかもワカラナイ。きぶんがワルイ。イッタイ、ナゼ…? 「っ也!?ねえ拓也!!」  加奈の呼ぶ声で我に返る。気がつくと僕はその場で頭を抱えて座り込んでいた。 「あ、いや、ごめん。」  僕は謝って、その場で立ち上がる。軽い立ちくらみ。嫌になるような不快感。 「ねぇ大丈夫?今日はもう帰ろう?」  加奈は心配そうな顔でそう言うと、軽く腰に手を回して来た。 「あ、いや、でも…。」 「でも、じゃないの!!もうっ!体調が悪いなら言ってよねっ!ほら、帰るよ!」  加奈は半ば強引に僕を引っ張っていく。僕は特に逆らう事もせず、彼女の優しさを素直に受け入れる事にした。
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