"小説"は"現実"より奇なり

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 加奈と別れて家に着くと、僕はさっきの記憶の断片の事を思い出していた。 「あれは、一度目の最後の日、だよね…。」  うっすらと、本当に薄くしか残っていない最後の記憶。でも、その日に何かあったのは間違いない。記憶はないのに理解はしているという、不思議な感覚。 「ノイズが走るのは、加奈と関係している時だけ、か。」  これは僕の頭が必死になって思い出そうとしているのか、それとも思い出す事を拒否しているのか…。  最後の日。加奈と何かを約束していた。『迎えに行くから』と。でも、何処に…?  いくら考えてもわからない。わからないけれど、僕はそれがとても大切な事な気がしてならなかった。  そういえば、結局聞けなかったけれど、なぜ加奈は告白の時にあんなにも冷静だったのだろうか。 「冷静…冷静…冷、静…?」  いや、加奈だけじゃない。あの時、あの場面で冷静だった人間がもう一人。そう、僕だ。僕は冷静だった。でも僕の場合は知っていたからだ。一度体験した出来事。それは勝利が決まっているギャンブルのようなものだ。ドキドキするはずもない。でも加奈は違う。じゃあ何故…?  一回目の記憶。その中の加奈は告白する日の帰り道では妙に無言で、話し掛けても上の空って感じだったはずだ。性格が変わっている…?一度目と今の加奈は別人…?いや、それもない。その人格の根本が前回と全く変わる人なんて今まで有り得なかった。第一、加奈は変わっていない。一度目の時と変わらない、僕の知っている加奈そのものだ。 「あー、もう!訳わかんなくなってきた!!」  僕は腰を降ろしていたベッドにバタンと体を預けると、この日はもう眠りにつく事にした。
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