"小説"は"現実"より奇なり

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 この年、全国的に遅かった桜の満開時期が終わりに向かい、暖かな朝を向かえていた。  僕はいつものように彼女の声で目を覚ますと、 「おはよう。」 なんて扱く当たり前の挨拶を彼女にした。  目の前にいる彼女は笑顔で僕におはよ、と挨拶を軽く返すと、僕の頭に手を置いて撫でるように手を滑らせた。  彼女の名前は宮沢 加奈(みやざわ かな)といって、僕とはまあ、いわゆる幼なじみといった関係である。小中高と同じ学校に通っていて、朝は当然のように一緒に通っていた。  実は、僕は一度目の人生の時には彼女と交際をしていた。その時は彼女から告白されたからだった。記憶が曖昧だけど高校三年生の五月に入る前だったから、今日あたりかと考えていた。  もちろん僕も加奈の事は好きだったし、相手の気持ちも十分に知っていたのだから、僕から告白すれば良い訳なのだが、僕は出来るかぎりこの世界では一度目と同じように動くように心掛けていた。それはただでさえズレてきている世界を崩したくなかっただけなのか、それともやはり何かひっかかるモノを感じていて、自分から動く事が得策ではないと思っていたからなのかはわからないが。  まあ今にして思えば、やはり後者だったのかもしれないけど、この時は深くは考えていなかった。  軽く身支度を整えて加奈と学校ヘ向かう。他愛のない話しをしながら登校をしていたのだが、僕はふと朝の風景に何か引っ掛かるような気持ちになっていた。  それが何かはわからなかったけれど、とても重要な事のような気がしていた。  学校に着き、いつも通りの一日を過ごす。何事もなくいつも通りに学校での時間は過ぎていった。さて、もしも加奈が告白してくるのなら、学校が終わった後に校門で俺を待っていたハズだったけれど…。  僕はそんな事を考えながらゆっくりと帰り支度を進めている最中、やはり気になったのは朝の風景だった。  何に違和感を感じたのだろうか…。部屋の配置…?時間…?いや、そんな事じゃない。もっと別の何か。でも何かがわからない。  そんな事を考えているうちに帰り支度は済んでしまい、僕はとりあえずこの事は考えるのをやめる事にした。
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