"小説"は"現実"より奇なり

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 五月に入り、ゴールデンウイークが過ぎて、皆が少し覇気が失くなっている教室。その中で僕はどうもあの日に感じた拭い去る事の出来ない違和感の事を考えずにいる事が出来なかった。 「なぁ拓也。告白する時ってどんな感じなんだろうな。」  昼食を摂り終わり、席でゆっくりとしている時に、僕の前の席から突然の話題を振って来たのは中学からの友人だった柏村 健一(かしむら けんいち)だった。 「え?いきなり何さ健一。キミ、告白する予定でもある訳?」 「ちげぇよ馬鹿。この前さ、ちょっと告白されたんだよ。」  健一はそう言うと、椅子の背もたれに両腕を組むようにもたれ掛かりながら、パックのリンゴジュースをズズーっと音を立てて飲み干した。 「へぇ、誰にさ?」 「バイト先の女の子。まあ断ったんだけどさ、何かあの内容を切り出す前の空気っての?お互いが何も話さないようなあの空気が妙に居心地悪くてさ。でも、俺の方ですら何か居心地悪かったんだから、告白する側なんて緊張と心配と期待が入り交じった何とも言えない心境だったんだろうなって思ってさ。」 「それは、まあ、そうだろうね。その女の子は"告白するぞ!"って気で来てるんだから、緊張感も恐怖感も期待感も混ざった変な感覚だと思うし、気分を紛らわすような会話が上手く出来るはずがな、い…。」  ノイズが走る。また違和感。自分の発言に違和感を感じる。おかしい、何か筋が通っていない。そう、最近体験した事。そうだ、加奈だ。彼女の行動への違和感。そりゃあ人によっては告白の前に妙に饒舌になる人もいるかもしれない。でも違う。そう、一度目の時は確か…。 「拓也?どうした?」  はっと我に返り健一の方を向くと、健一は心配そうな顔をして僕を見ていた。 「あ、いや、ごめん。何でもない。」 「大丈夫か?あ、次は移動教室だろ?そろそろ行こうぜ。」 「あ、ああ、そうだね。」  何か少し違和感が理解出来そうな気がしたが、僕は健一が促すままに考える事をやめ、教室を後にした。
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