第一楽章 rain the song

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「アーサヒっ!!今日も暑いなぁ!!」 いつもの時間、いつもの場所。 まだ六月だというのに、半袖のシャツに短いスカート。 今時の高校生らしい格好で、僕に抱き付いた。 「その格好はまだ寒いんじゃない??」 だって僕は、シャツの上からセーターをきている。 僕だけじゃなくて、周りの人もだけど。 「いーのっ!!ほら、早く行かないと遅刻だよ??」 楽しそうに坂をかけていくアークの後ろ姿が、とても愛しく思える。 だけどそれは、知ってはいけない感情。 心を持つ僕は、恋という感情を知ってしまった。 君を好きになっても報われはしない思い。 君は人間。だけど僕は?? 答えは一つしか存在しない。 『心を持つ機械』 だけど、押さえられない気持ち。 キミガスキ。 「そーいやアサヒ、宿題やったか??」 現実に戻されるのはいつも突然で。 振り向いた君は、僕が来るのを止まって待っている。 「宿題って、あの昔話の??」 昨日、アークが珍しく聞き入っていた国語の授業。 内容は、恋愛に近かった。 今よりも遥か昔。 だけど21世紀を生きていた人間にとっては遥か未来の話。 それぞれの欲望のため、若い科学者が造ったアンドロイド。 それらは世界を便利な世界へと変えていった。 成長していく体。 心がある機械。 人間と同じように成長し、人間と同じように終わりを迎える。 そして、悲劇が始まる。 沢山の人間が死んだ。 沢山のアンドロイドが壊れた。 沢山の悲しみが溢れた。 そんな時代に終止符を打ったのは、一台のアンドロイドだった。 記憶をなくし心を壊したアンドロイドは、自分がアンドロイドであることすらも忘れてしまった。 彼は人間として生きた。 彼は人間として死んだ。 悲しい恋物語。 まるで空想のおとぎ話のようで、だけど誰も否定できない。 この町に溢れるマリオネットは、同じ姿をしているからだ。 そして 自分が人間であるかどうかも、疑っているのだから。
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