出発―しゅっぱつ―

3/4
前へ
/20ページ
次へ
    部屋を出て、なるべく人がいない場所を選んで通る。   広い屋敷が、こんな時ばかりは恨めしかった。       しかし、セシーは難なく外に出ることができた。   生まれて18年。 この屋敷で過ごした時間は伊達ではない。       外気に触れてホッと一息つくと、再び気合いを入れ直した。   ここで見つかれば全てが台無しになる。       足早に、だが慎重に足を進めた。   見張りの目をかわしながら、屋敷の裏手を目指す。   ここまで来ればこっちのものだ。       セシーは素早く一台の『バイク』に近付いた。       『バイク』とは、三輪駆動の車体に人の丈程の翼がついたものだ。 ウイングで使用されている、ポピュラーな移動用の乗り物である。       つい最近、セシーは『バイク』の免許を取得したのだ。   もっとも、このために取得したということは本人以外知らない。       手際よくバックを後部座席に固定し、車体に跨る。   エンジン音が響いた。   免許取り立てということもあり、不安がないわけではない。   だが、迷っている暇はなかった。   このエンジン音を聞きつけ、いつ人がやって来るかも分からない。       エンジンを噴かし、短い滑走路に入る。   スピードを上げ、翼の噴射口のスイッチをオンにした。           鳥のように上空へと舞い上がる。   眼下に住み慣れた屋敷が広がっていた。    
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加