出発―しゅっぱつ―

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    住み慣れた屋敷が遠ざかる。       セシーは名残惜しむように屋敷を振り返った。   目に焼き付けるように見た後は、前を向いて振り返らないようにする。   もう、ここには帰らないのだから。       寂しくないと言えば嘘になる。   だが、自分の考えを曲げる気はないし、後悔もない。       涙を流すこともなく、セシーは『バイク』をウイングの端まで飛ばした。       ゴクリと唾を飲む。       眼下には闇が広がっていた。   ウイングとは異なり、大陸に明かりは少ない。   真夜中ともなれば、ほぼ真っ暗だ。   それに、ここまでの高度を飛んだことがない。   『バイク』はウイングの中を移動するためのものなので、教習の時も規定の高さしか飛ばないのだ。   だが、大陸までは予想以上の高度があった。   暗闇であることも手伝い、目的地が見えてこない。       それでも、セシーは進むしかなかった。       あっという間にウイングから離れる。   そのままゆっくり高度を下げていった。       手が震えそうになる。   歯を食い縛って運転に集中した。   墜ちたら命はない。       大陸が近付いてくる。       地面に生える木々を捉えて、セシーは安堵の表情を浮かべる。   だが、その安堵が気の緩みを招いた。       村の姿を見た気がして、セシーは方向転換を試みる。   その時、ハンドルが有り得ない動きをした。   操作ミスである。       ガクンと『バイク』が急に高度を落とす。   目先には森の姿があった。       静寂を保っていた森に、セシーの声が響く。       「う、嘘でしょーー!?」    
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