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「――…もう春やのに、ココまるで真冬みたいな気温やなァ」
「…おい、せめて無断で執務室に入るのは辞めとけ。他では冗談じゃ通らねぇぞ」
「別に構わへんよ、無断入室してるの冬んトコだけやから」
何の音沙汰も無く入って来た市丸に一瞥を向けると、不機嫌なのが解ったのか不思議そうな表情で俺に近付いて来た。
「あら、ご機嫌斜めやね。乱菊に茶化されたんやないの?」
「…何でお前が知ってんだよ…」
「知っとるも何も…昨日乱菊と飲んどる時、"明日は子供の日だし、隊長イジってみよっかなぁ"って言いよったよ」
今回の松本の言動が計画的なものだと分かって尚更腹が立つが、市丸にやつ当たりした所で状況的には変わり無いだろう。
「……で、お前は何しに来たんだよ。松本と同じ理由じゃねぇだろうな…?」
「まぁ…似た感じなんやけど、冬がコレ知っとるか思うて」
そんな事を言いながら、市丸は手持ちの徳利を机に置いた。
中を覗けば、独特な香りが鼻を刺す。
「これ…酒か?」
「そ、菖蒲酒って言ってな、子供の日に大人が呑むもんなんやけど」
「あやめさけ…?初めて聞く名前だな」
「冬は中々お酒飲まへんから聞かんやろね。中身は普通のお酒なんやけど、中に菖蒲の葉っぱ入っとるやろ」
側に置いてあった空の湯呑みに、無色透明の液体が注がれる。
それに混ざって、細い新緑の葉も湯呑みに受け落ちた。
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