序章

2/2
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 息が白くなるほど冷たい朝だった。  家を出るとすぐそばに一つの段ボール。そこから、小さな、本当に小さな声がした。男はそこを覗き込む。すると、そこには一人の赤ん坊、いや、もう少し大きい。二歳か三歳くらいの男の子がいた。体がぎりぎり入りきるくらいの大きさの段ボールに身を丸めて暖を取ろうと必死になっていた。 「どうした?」 「あ。」 「ん?」 「あ、あ。」  その男の子はずっと、あ、と繰り返すだけだった。そして、わかる。この子は言葉を知らないのだ。教えられてこなかったのだと  鼻や頬は真っ赤で、手も痛々しいくらいに腫れていた。急いで暖めなければ死んでしまう。そう思って、急いでその男の子を抱えて家の中へと入り、ストーブの前へと座らせた。  その日の夜はとても綺麗な満月の夜だった。          
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!