~プロローグ~

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桜が綺麗に咲き誇る4月。 『……智也…』 私は愛しい人の事を考えながら… 舞い散る桜を見上げていた。 『…もうすぐ…散っちゃうんだなぁ…』 時間の経つのは早い。 そう実感せざるを得ない。 『…会いたい… 会いたいよ…智也』 ぽつり、雨でもないのに雫が一滴…地面を濡らす。 ――コツン。 『………う…ん?』 …突然、足元に違和感。 慌てて涙を拭い、 足元に視線を落とせば… そこには、コロコロと行き場を失った小さなボールが転がっていて。 『…あっごめんなさぁい!』 次の瞬間、耳に届いた可愛らしい声に… 落とした視線を少しだけ上げた。 すると、そこには息を切らした小さな女の子が立っていて。 『…このボール、あなたの?』 人の手を離れ、動けなくなったボールを 私は拾い上げて尋ねた。 『うんっ』 女の子は元気よく頷き、両手をこちらへ伸ばしてきて… 『はい、どうぞ』 私はその小さな両手にボールを優しく乗せた。 『ありがとうお姉ちゃん!』 そうやって微笑む女の子はとても可愛くて。 『どう致しまして』 私もつい口が緩む。 『結花~? 何やってるの~?』 『あ、お母さんだ』 振り返った女の子の後ろを見れば… 少し遠くに、首を傾げたお母さんらしき人影。 『じゃあまたねっ』 女の子はもう一度だけ私を振り返ってから、 『お母さ~ん!』 嬉しそうにお母さんの元へと駆けて行った。 『…可愛かったな』 私はそれを確認して、 女の子の後ろを見つめた後… 再び桜へと視線を巡らせた。 智也――…‥ 桜が綺麗だよ。 また一緒に 見たい、な...。
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