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泉の前に居座り、牙を剥いている化け物はクライスにとって、悪夢そのものだった。
『呪われし牙』の名を付けられた双頭の蛇は目の前の餌に狙いを定めると大地を震わせる程の咆哮をあげ、鎌首をクライスに向け振り下ろした。
「くっ!」
紙一重で最初の一撃を避けたものの、続く尾の薙ぎ払いを避けきれず壁に叩きつけられる。
「がはっ!」
口の中に錆臭い味が広がってくる。
肋骨が何本か持って行かれたらしく、呼吸が辛い。
しかし、クライスの意識に『逃げる』という文字が浮かぶ事は絶対になかった。
2年前、故郷を破壊し、そして妹を奪った相手が目の前にいるのだ。
「ふざけるなよ…この程度で終われるほど、俺は…!」
鞘を杖代わりにして、どうにか立ち上がり、曲がってしまった剣を構える。
蛇と視線が交わる。
「2年前、あの悪夢の日から続く因縁をここで断ち切らせてもらう!!」
咆哮をあげる双頭の蛇に向け、クライスは駆け出した。
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