序章~最果ての記憶~

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  と、肩に何かポツン、と当たった。動かしていた体を即座に止める。するとまたポツン、と次は二の腕に感覚を覚える。僕は上を見上げた。   「……雨、?」   空の色は今までに見た色と変わらない。だがまたポツン、と今度は右肩にあたり、それは速度をまして次は眉間、頬、そして胸にも当った。   「雨だ…。」   口にしたのと同時に、せきをきったかのように勢いを増した雨が天から降り注いできた。それは、世界が初めて表情を変えた瞬間だった。雨粒達は死んだ大地に水を作り、自分達の居場所を探し始めた。あれほど不変に満ちた大地は一瞬で水に支配されつつある。死体に溜まり、そこから溢れて大地を再び潤すのか。出来上がった水溜まりが隣の水溜まりと絡みあって、また水溜まりを作っている。くすんだ色で、汚れた泥水に何かは判らない黒い汚れが浮かんでおり、ヘドロのような匂いがしたが、それに気づいたのは自分の喉を癒す為に地面に手をあてがっていた時だった。   ゴクッ、ゴクッ、と喉が水を欲する。ゴクッ、ゴクッ。   あまりに勢いよく飲んだので僕はむせてしまった。しかしそんな事に怯むことなく、また別の水がたくさん詰まっている水溜まりに顔をあてた。僕は、泣いていた。  
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