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山田は呆然と時計を見つめ続けていた。
二時十八分、二時十九分、二時二十分……。
その時机の電話が鳴り出した。
震える手で受話器を持ち上げ耳に当てる。
「山田さん、かもめ幼稚園からお電話です」
受付け嬢がそう告げ、電話が幼稚園に切り替わった。
「電話代わりました。山田です……」
「こんにちは。ぞうぐみの担任の桜庭です。亜弥ちゃんのお父さんでいらっしゃいますね。」
「はい……」
「先程、幼稚園バスで亜弥ちゃんを送って行ったんですが、ちょっと誰も迎えにいらしていなかったみたいで携帯も出なかったって、たった今バスの方から連絡が来まして、それで何か事情があったかなって思って電話したんですよ。
何かあったんですか? バスは今、園の方に向かっているので、園の方にお迎えをお願いしたいのですが、何時頃なら来られそうですか?」
妙子が死んだ事を知らないのだ。
警察がみんなに話して回る訳はない。知らないのが当たり前の事なのだ。
だが山田は妙子の死を知っているのが自分だけだという事実に初めて気付き、驚きを感じていた。
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