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山田は隣りの席の女子社員がこちらを見ていない事を確認しつつ机の上の携帯電話に書類をそっとかぶせた。
そして書類を机の下の引き出しにしまう振りをしながら持ち上げると、携帯電話をズボンの右のポケットに滑り込ませた。
椅子の背もたれに掛けた上着のポケットを後ろ手で探り、札入れを取り出す。今度はズボンの左ポケットに突っ込んだ。
山田の行動には誰も気付いていない様だった。思わず大きなため息を吐き出してしまい、慌てて口を閉じる。
誰にも気付かれてはいけない。外に出て行こうとしている事は……。
今は仕事中なのだ。けしてバレてはならない事だった。
机に手をついて立ち上がる。出来るだけ自然に見える様に細心の注意をしながら席を離れる。
足の震えを抑えながら部屋を横切って行く。そこに見えているドアが何十メートルも遠くにある様に感じる。
やっとドアに辿り着き、ノブに右手をかける。そっとドアを開き、山田は廊下へと出て行った。
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