電話

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 午前十一時、山田はいつもの様にコーヒーカップと煎餅を運ぶと仕事場の自分の席に腰を下ろした。  冷めかけたインスタントコーヒーを一口啜り、煎餅の袋を開ける。  山田の勤めている部署では、毎日昼食前仕事の空いてきた頃に休憩室でお茶やコーヒーを飲みながら談笑する、いわゆるお茶会の様な物が開かれる。  同僚との人間関係はさほど悪くはないと思う。誰から嫌われているという訳でもない。  ただ皆の会話にも加わりもせずその“お茶会”の中にいるとどうにも居心地悪く、山田はその場を離れ自分の席でコーヒーを飲むのが常だった。  同僚たちの楽しそうな声が微かに聞こえて来る。どうやら今朝見たワイドショーの話で盛り上がっている様だ。  人気絶頂のアイドルの不倫疑惑に皆で推理合戦に花を咲かせているらしい。 「そんなのは個人の問題だ。赤の他人がどうこう言う事じゃないだろう」  そうつぶやくと煎餅を口に放り込み、書き掛けの書類に目を落とした。  その時机の上の電話が鳴り出した。
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