1人が本棚に入れています
本棚に追加
更に一歩、更にまた一歩、距離を縮める。
足音に反応したのだろう、緩んだ相手の口許が引き締まる。
「…………」
俺はいつからか、焼き潰された目を見つめていた。
これは俺が焼いた両の目。
体の傷も俺が付けたものだ。
今、俺が止めを刺すのだ。
相手は十数年の友。
止まる事は、出来ない。
烈火のように加熱された四肢が、疼くように俺を責めた。
「油断するなよ?」
沈黙に耐え兼ねたように、そいつは俺に呼び掛けた。
それはちょうど、相手の間合いに踏み込んだ時だった。
「…………」
言葉を返す気は無かった、代わりに右手を相手の手元に振り込んだ。
金属同士が派手にぶつかる音が辺りに響き渡り、相手の手元から得物が吹き飛んだ。
それはしばし宙を泳ぎ、地面に突き刺さる。
一本の、銀色の杭だった。
「流石だな」
相手の右手は、炭になり崩れ落ちていた。
痛みを、感じているようには見えなかった。
「泣くなよ」
悲しく無い、はずが無かった。
気付けば、涙が溢れ出ていた。
しかし拭う事は出来ない、そのまま、ただ流れ落ちて行く。
「結局、お前には勝てなかったな」
最初のコメントを投稿しよう!