第一章『平和な世界と不安な毎日』

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 更に一歩、更にまた一歩、距離を縮める。  足音に反応したのだろう、緩んだ相手の口許が引き締まる。 「…………」  俺はいつからか、焼き潰された目を見つめていた。  これは俺が焼いた両の目。  体の傷も俺が付けたものだ。  今、俺が止めを刺すのだ。  相手は十数年の友。  止まる事は、出来ない。  烈火のように加熱された四肢が、疼くように俺を責めた。 「油断するなよ?」  沈黙に耐え兼ねたように、そいつは俺に呼び掛けた。  それはちょうど、相手の間合いに踏み込んだ時だった。 「…………」  言葉を返す気は無かった、代わりに右手を相手の手元に振り込んだ。  金属同士が派手にぶつかる音が辺りに響き渡り、相手の手元から得物が吹き飛んだ。  それはしばし宙を泳ぎ、地面に突き刺さる。  一本の、銀色の杭だった。 「流石だな」  相手の右手は、炭になり崩れ落ちていた。  痛みを、感じているようには見えなかった。 「泣くなよ」  悲しく無い、はずが無かった。  気付けば、涙が溢れ出ていた。  しかし拭う事は出来ない、そのまま、ただ流れ落ちて行く。 「結局、お前には勝てなかったな」
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