1人が本棚に入れています
本棚に追加
だがそれは社会的敗者と後ろ指を指されるのが目に見えている。
とりあえずは一社、面接の予定がある。
今日はこれからその会社に向かい、自分を売り込むのだ、気が重くなる。
遅くなったが自己紹介をしておこう、僕の名前は『巻島(まきしま)夢(ゆめ)』、夢という名前は男には珍しいだろう、父親がふざけて付けた名前だ。そう、マキシマ・ム。と読む為に。それだけの為に。
余り気に入ってはいないが、別段不便も無い。
怨んでもいない。
僕は家を出て、特に語る事もないまま会社に着いた。
その建物ははっきり言って、立派な佇まいはしていない。
なかなか貧相な四階建ての、灰色をしたビル。
デザインでの配色では無く、コンクリートの色なのは明白。
そして救われないのは、ここが間違いなく本社だという事である。
「ふぅ」
会社の正面に立つと、なんだか疲れるのが分かった、働くというのは大変な事だ。
まだ内定すらしていないが、行きたく無いのが本音である。
だが仕事は必要だと分かってはいる、僕は仕方なくその会社に入っていった。
ドアも随分適当な作りだ、はたしてセキュリティは十分なのだろうか。
不安だった。
この国は 年々就職難になっている、就職することが実際に働くよりも大変なくらいに。
第一印象は大事だ、大きな声ではきはきと、僕は挨拶をしなくてはならない。
「おっ、……こんにちはっ!」
お早うございます、と言いかけて、なんとか軌道修正を果たした。
「はい、こんにちは」
返事はすぐ前の、初見の女性がしてくれた。
「はい、早速ですが巻島様で間違いございませんね?」
彼女は手にした紙を見ながらそう言った、名前の確認、普通の事だ。
黒くて長髪の、細身の女性。受付か何か、事務員だろうか。
「はい、そうです」
なんの捻りも必要無いだろう、僕はなにも考えずそう答えた。
そして綺麗な人だな、という第一印象は僕にとってはプラスだった。
「はい、ではその場でぐるっと回って下さい」
一瞬不審に思うが、まぁ構わないかと思った。
僕はその場で言われたとおりに回って見せた。
回りながらやめときゃ良かったかな、とも思ったが、そのまま回りきる。
なんだか恥ずかしい、それに何かのテストかも知れないし、もう少し考えても良かったかもしれない。
「これで、良いですか?」
最初のコメントを投稿しよう!