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そのドアの直前で立ち止まり、一気に駆け上がってきた緊張に煽られる。
そうだここからが本番だ、しっかりやらなくては。
そう覚悟して、僕はドアをノックしようとした、ノックは三回、二回はトイレで使うものだからだ。
だが、軽く握った拳がそのドアに触れる直前、僕は気付いてしまった。
開いている……。
社長室か、あるいは応接室だろうが、その木のドアは何故か開いている。
暫く僕は硬直した、こんなときどうすれば良いのか分からなくなってしまったのだ。
冷静に考えればどうという事も無いのだろう、気にせずノックすれば良い。
自分の心音を聞かないようにしながら、僕は再びノックしようとする。
しかし拳はドアを叩く事は無かった。
何故なら開いた隙間から、不意に声をかけられたからだ。
「入りたまえ」
その声は明らかに、その少し開いたドアの向こうからしたものだった。
そしてその声は、僕の想像を凌駕した音色だった。
「どうした?、早くしたまえ」
僕を急かすその声は、聞き間違いではなく女の子のものだった。 確か少し前に、社長がお待ちです、と促された気がするのだが。
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