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草間は再度大きなため息をついた後、2人を引きずりながら兵舎へ向かった。徐々に離れていく3人の方から、騒ぐ青木と怒鳴る草間の声が聞こえた。
間もなく、諫渚と月詠も歩き出した。
月詠「貴様の隊はいつも賑やかだな。隊長の影響か?」
諫渚「ハハハ・・・、すみません。でも、中尉が冗談なんて言うんですね。あいつの影響ですか?
月詠「そうかもしれんな。奴は良くも悪くも周囲に影響を及ぼすからな。」
諫渚「違いないですね。」
2人は横浜基地の正門、桜並木の前で立ち止まった。そして無言で手を合わせる。この場所でこのような行動を取るのは、この2人以外には、『彼等』とその関係者くらいであろう。この桜の下には、名を明かす事も許されないまま、人類の未来を『彼等』に託して散っていった、A‐01部隊、通称『伊隅ヴァルキリーズ』の面々の英霊が眠っているのである。
月詠「諫渚、貴様は此度の作戦、どう考える?」
諫渚「成功率は楽観的に見ても2%が良いところですかね?ただ・・・」
2人「『彼等』なら。」
月詠「ふ、考える事は同じか。」
諫渚「ですよね。じゃあ今度は俺から、中尉達の機体はどこに行ったんですか?」
月詠「『人類の未来への先行投資』とでも言っておこう。」
諫渚「やっぱり。なら、成功率は5%くらいにしても良いですね?楽観視ですけど。」
月詠「だが、ゼロよりは遥かに希望がある。」
諫渚「違いありませんね。ところで中尉、そろそろ、最大の願いを言っても良いんじゃないですか?」
月詠「貴様こそ言ったらどうだ?」
数秒だろうか、数十秒だろうか、沈黙が続いた。今2人が口に出そうとしている言葉、それは本来、このような場所で軍人が口にしてはいけない言葉、衛士の流儀に反する言葉、そして、伊隅ヴァルキリーズのモットーにも反する言葉、それでいて、誰もが心の中に秘めている本音。
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