第六話 柵の中 悔しさの拳

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「…………」 『……』 一瞬だけ沖田と目が合うが、サッと、着物で前を隠すと、すぐに背を向けた。沖田は何も言わない。…ばれたのだろうか…。 「女がいるってわかりゃ、殺されるぜ」 『……っ…』 頭の中で、藤堂の言葉が繰り返される。 自分は殺されてしまうのだろうか…。 恐怖感を消すように唾を飲み込み、沖田に聞いた。 『げ、源さんが何て…??』 「…あぁ。これで体を拭けと。置いておきます…」 『ん…ありがとう…』 沖田は何も言わず、布を畳みに置くと普通な態度で障子を閉めて行ってしまった。 『…びっ……くり…した…っ』 ガックリと膝をつき、激しく深呼吸をして自分を落ち着ける。 情けない事に、体が震えていた。 『ど…どどどどどどうしよう…!!ば、ばれた?!ばれちゃったの?!いや…ででもっ、普通だったし…!…………そうよ!あんなに暗かったんだし、見えるわけないって!!うん!そう!見えたとしても背中だけだしね!!』 着物を着て一人、高らかに笑いながら立ち上がり、ため息をついた。 『……お嫁にいけない……』 寂しい呟きが、静かに部屋に響き渡った。 うっすらと照らされた廊下を沖田は歩いた。この先の角を曲がれば、自分の部屋だ。一旦、避難するかのように自室へ入った。 「…………」 障子を閉めると、口元を押さえた。 「……お、女の子…?!」 先程の光景が信じられないかのように、言葉にする。 あまりの突然な出来事に、ほんのりと顔が赤くなっていた。 弥生の読みは外れ、バッチリと見てしまっていた沖田。女といる時間が多い為、見抜けないはずがなかった…が…。 (…不覚…っ…。けど…あんな男勝りな女も初めて見た…。気づかないって…) 口元から手を離すと、冷静な顔で刀を見つめた。 「……斬るか………」
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