第六話 柵の中 悔しさの拳

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『意外と物を大事にするんだなって』 「………」 刀から目を離すと障子を開けて部屋を出た。 歩く廊下は足の裏を冷やしていく。そんな風に自分の気持ちもひんやりとしたものに変わっていくのを感じた。 …- 「…別に芹沢さんからとりたかった訳じゃないですけど…誘われたので、男として」 「やかましい童っ!!貴様…そんなに殺されたいのか?!」 刀を突き付けてくる芹沢に冷めた目を向けた。 フッと笑うと、浮かんだ考えを伝えた。 「そうですね…。では…次、芹沢さんから女をとったら、私の何かを奪う…という約束はいかがです??物なり、刀なり…命なり…」 「……ほぅ…約束するか…??」 「えぇ…。お好きに…」 ハッと気づけば、広間の障子を通り過ぎていた。 自分がどうするのか、はっきりと決めたわけじゃない…。 報告して、自分が始末すれば終わる。なかった事にできる。 沖田は無意識に俯きかけていた顔を上げて、広間へ戻るべく、数歩ほど戻って障子に手をかけた。 「総司っ。早崎くんは火傷などはしていなかったかい??」 「……えぇ。ぴんぴんしてましたよ」 近藤の問い掛けにニコッと笑うと障子を閉め、自分の席へ戻った。 何やら、報告する機会を逃した気がする。 そう感じる沖田は、どう切り出そうか悩んだ。 しかし…ふと、想像する。 報告する相手、土方の反応を…。 「はっ!夜な夜な女遊びをする割には肝心な時には男として、なんも感じないとはな…。まだまだ餓鬼な証拠なんだよっ。これからずっと、外出は禁止だ!」 など、小ばかにした笑いでそんな事を命じられてしまいそうで癪だと感じた。 「…はぁ~…」 小さくため息をついて、報告は断念した。そんな沖田を横目で見る土方。声はかけなかった。
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