第六話 柵の中 悔しさの拳

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すると、いきなり障子が開き弥生が入ってきた。 「お。さっきと変わらねぇなぁ」 「左之さん…着替えたんだから、当たり前…」 苦笑いする藤堂を見ては、視線が流れてしまう。場所は…沖田だった。 ちらっと見てはすぐに視線を泳がせるの繰り返しになってしまう。 だが…広間に戻って、周りが何も言わないのは…ばれていないと再確認できた。 安心するのもつかの間だった。土方に声をかけられるまで…。 「早崎。とにかく、芹沢に気に入られとけ。いいな、ダメだと思ったら……まぁ、どうにかしろ」 『具体策を言えよ…』 先程からの土方の視線もそうだが…余程、芹沢が気に入らないらしい。 弥生はもっと別の意味があるんじゃないかとも感じとっていた。 「…さっさと、芹沢さんの所に行きなさい。後、臭い」 『だぁから!!気のきいた言葉の一つくらい言えっての!これだから新撰組は…!』 「新撰組??」 沖田にがっついてしまったのか、熱くなってつい出てきてしまった単語。 キョトンとした顔で藤堂が聞き返すと、全員の視線が弥生へと向けられた。 『………えっと…何だろうね??』 「お前が何なんだ…。くだらねぇ事、言ってねぇで早く行け」 僅かに土方の額に青筋が立ちはじめる。弥生は慌てて広間を飛び出した。 『いろんな意味で危なかったぁ……っ。…まだ、浪士組なんだった…でも、確かもうすぐ新撰組になるんだから…いいよね…』 一人、納得しながら廊下を歩いた。ふと夜空を見上げれば、少し欠け始めた月が雲に隠れ始めている。 『…あたし…どうやって元の時代に戻れるんだろう…』 連れて来られた形に近いのに、方法などあるのだろうか…。 そんな事を考えているとある事に気づき、立ち止まった。
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