第六話 柵の中 悔しさの拳

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一睨みするだけで、威圧と殺気で押し潰されそうになる。 弥生は何も言えずに、小さく首を横に振った。 「……ふん。行くぞ」 鉄扇を広げ、平山に顎で指示を出した。 平山はすぐに戸を荒々しく叩いた。 「…へいっ、こんな夜更けにどちら様で」 「緊急の用事だ。開けてくれ」 「緊急?!それはどんグアッ!!!」 慌ただしく開いた戸から人影が見えるか否や、平山は刀の柄で顔面を殴った。 『ちょ』 「夜分に失礼するぞ、番頭殿…暗がり故、用心に越した事はない…」 弥生を無視して芹沢と平山はズカズカと中へ入る。 番頭と呼ばれる男は、尻餅をついたまま、血が垂れる鼻を押さえながら悲鳴を上げて、後ずさった。 すると、物音と番頭の悲鳴を聞いたのか、奥から明かりを持った人が数人、出てきた。弥生も中へ入り、状況を把握しようとした。 「名を名乗れ!奉行所にすぐに連絡を入れる!!」 「…私が…??」 「………あぁ…」 不敵に笑う芹沢を見るとニヤッと平山は笑った。 次の刹那には、明かりが届いていた場所に赤いものが舞った。 「ぎゃぁああぃぃ!!!!」 『…っ…!!』 「いぃい命だけはぁあ…!」 目の前の光景は現実のものなのか…。 そう問いただしてしまいたくなる程、無惨にも平山に切り刻まれた骸が重なった。 「…謝礼金をいただきにきた。この者どもは、高貴な客にばかりべべを売り、さらには店の金を使って賭博をしていたっ。町の治安を脅かしている事が今、わかった」 「な、何を…!!?でま、かせ…を…」 微かに息をしていた者の首を、芹沢はなんの躊躇もなく、刀で切り落とした。 「………ご主人…」 「お、お納め下さい…っ!」 震えながら、小走りで来た男は芹沢の手にあるものを乗せた。 気をよくした芹沢は、平山と共に店を出た。
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