ある種の神童

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…――― 「ほらついたわよ、早くお弁当でも食べましょうよ。」 「母さん、主旨変わってるぞ…ピクニックじゃないんだから。」 全く、自分の夫の命日ぐらいは陰気な気分になれとは言わんが自重してくれ。 「はぁ…。」 いや、しかし親父の前で元気な姿を見せるという意味で明るく振る舞っているのかもしれない。 「ほらほら、莉紗も早く母さんの魅惑のステップを真似してみなさい!!」 「む、無理だよぉ…。」 うん、俺にはよく分からない愛の形がある、とりあえずそういう事にしとこう。 あと母さん、墓前でタップダンスを踊る成人女性なんてあんたぐらいだぞ…。 「母さん、マジ恥ずかしいからやめてくれ…親父が悲しむぞ。」 まぁ…実際は親父は《そこ》にいない、それはどういう意味かなんてのは誰かに語るほどの事でもない。 いや、というよりは軽々しく口に出したくないのだ、出来れば死ぬまで俺の胸にしまい込みたい。 しかも軽々しくしていい話でもない上信じがたい、そんな俺の現実の現状。
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