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「……さて」
気持ちを入れ替える為に一言呟いて、晴夜は遠慮も躊躇いもなく薄汚れた袴を脱がせる。
だが少年の胴着を脱がせた瞬間、目の前にある光景に驚いて手が止まってしまう。
「……え」
目を見開いて驚く。視線の先には、胸にしっかりと巻かれているさらしがあった。
何故これがある。男だから、さらしをつける必要なんてないはずなのに。
驚くほど華奢な体。男性なのに見付からない喉仏。緩やかに括れている腰を見ると、完全に女の体だと思う。
「嘘でしょ?」
彼ではなく彼女の顔と姿を観察する事にした。元は真っ白だろう肌は、気を失っているからか少し青白い。
普通の男性よりも長い睫毛。こちらが驚くほど華奢な体つき。さらしで胸は潰し、袴は括れた腰を隠してくれる。
きっと彼女は何か理由があって、男装をする羽目になったのだろう。
「だから袴なのね。女だって気付かれにくいもの」
とりあえず持ってきた袴に着替えさせた後、晴夜はそっと彼女の髪に触れる。
さらさらした手触りの漆黒の髪は、肩辺りでばっさり切られていた。
これは男装する為に自らの手で切ったのか、それとも誰かに切られたのか。
「……なんだ、この子も辛い思いをしてるのね」
彼女は、姿形こそ違うものの晴夜とどこか似ているみたいに感じた。
この少女と仲良くなれたらいい。男装していても女なのだから。男ばかりの場所で、女性の友達が出来るのは嬉しかった。
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