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「きゃああぁぁ!」
朝早くから、甲高い悲鳴が屯所中に響き渡った。
今まで気持ち良く寝ていた者達が、それに驚いて慌てて跳び起きる音がする。
「な、何だ!?」
土方歳三もその一人だ。
聞き覚えのある声は、寝ているであろう晴夜のもの。もしや誰か敵でも現れたのだろうか。
彼女は強いから負けるはずはないと思うが、万が一という事もある。そう思うと不安になり、慌てて晴夜の部屋へと走り出した。
ここは、新撰組と呼ばれる組の屯所だ。腕の立つ侍達がたくさんいるこの屯所に、敵が攻めてくるなんてほとんどない。
そして今回も、敵の襲撃などではないようだった。
先の悲鳴の主、晴夜の部屋の前には何人もの人が集まっている。全員、この部屋の主である晴夜の事をよく知っている者達だ。
「おい総司、何があった」
自分はすぐ近くで突っ立っている青年に問い掛けると、彼は困ったように笑う。
どこからどう見ても女のようにしか見えない、真っ白な肌に綺麗な顔。
漆黒の髪は艶やかで、それを後ろで一つに纏めている長髪の青年だ。
「何があったのかは分かりません。ただ分かるのは、近付く事が出来ないって事ですね」
いつも思うが、この青年の言葉は言ってる意味が分からない。
百聞は一見に如かず。
自らの目で確かめようとした土方の目の前を、重そうな硯が通り過ぎた。
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