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覗き込んだ部屋の中は、大惨事だった。物が倒れている。布団は切り裂かれて、障子も破れていた。
今みたいに物が飛んでくる事だって、この状況では普通にある事のようだった。
「晴夜、落ち着けってば!」
投げられる物を避け、振り回されている刀も避けながら藤堂平助が叫ぶ。
彼は普通の人より小柄な体型をした美男子で、よく晴夜の側にいる。
そんな彼の横で同じように彼女を抑えようとしているのは、原田左之助。
大柄な体に粗削りな美貌をした彼は、冷や汗をかいている。いや、彼だけではない。
ここにいるほとんどが、冷や汗を流しているのだ。原因は、この部屋の中央で突っ立っている少女にある。
彼女がこちらを見た。そのよく見知ったはずの顔を見て、全員が息を呑む。
夜の色より濃い漆黒の長い髪には癖などなく、人形のような顔はいつもと違う無表情。
問題は彼女の瞳にあった。いつもは、青色を混ぜたような澄んだ藍色の瞳のはずだ。
なのに今は、まるで血のように赤い瞳をしている。その整った美しい顔は無感情で、いつもの彼女とは似ても似つかない。
「……おい、永倉君はどこだ?」
「今斎藤さんが起こしに行ってますが、多分まだ昨日の少年のところです」
そう答えた藤堂は、本当に紙一重で振り下ろされた刀を避けた。髪が数本だけ宙を舞う。
彼女の手に持たれた刀は血のように赤い。今の彼女の瞳と同じ色だ。
「……痛い」
不意に、目の前で止まっていた晴夜がぽつりと話し出す。
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