01

3/12

3287人が本棚に入れています
本棚に追加
/751ページ
覗き込んだ部屋の中は、大惨事だった。物が倒れている。布団は切り裂かれて、障子も破れていた。 今みたいに物が飛んでくる事だって、この状況では普通にある事のようだった。 「晴夜、落ち着けってば!」 投げられる物を避け、振り回されている刀も避けながら藤堂平助が叫ぶ。 彼は普通の人より小柄な体型をした美男子で、よく晴夜の側にいる。 そんな彼の横で同じように彼女を抑えようとしているのは、原田左之助。 大柄な体に粗削りな美貌をした彼は、冷や汗をかいている。いや、彼だけではない。 ここにいるほとんどが、冷や汗を流しているのだ。原因は、この部屋の中央で突っ立っている少女にある。 彼女がこちらを見た。そのよく見知ったはずの顔を見て、全員が息を呑む。 夜の色より濃い漆黒の長い髪には癖などなく、人形のような顔はいつもと違う無表情。 問題は彼女の瞳にあった。いつもは、青色を混ぜたような澄んだ藍色の瞳のはずだ。 なのに今は、まるで血のように赤い瞳をしている。その整った美しい顔は無感情で、いつもの彼女とは似ても似つかない。 「……おい、永倉君はどこだ?」 「今斎藤さんが起こしに行ってますが、多分まだ昨日の少年のところです」 そう答えた藤堂は、本当に紙一重で振り下ろされた刀を避けた。髪が数本だけ宙を舞う。 彼女の手に持たれた刀は血のように赤い。今の彼女の瞳と同じ色だ。 「……痛い」 不意に、目の前で止まっていた晴夜がぽつりと話し出す。
/751ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3287人が本棚に入れています
本棚に追加