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お祖母ちゃんは、冷えた水をコップに入れて、私に差し出してくれました。ゴクゴクと喉を鳴らし飲み干すと、
「何かあったの?」
訝しげに私の瞳を覗きこみました。私は嘘をついたことがありません。ですから、息も絶え絶えに素直に話し始めました。
「さっき、校門を過ぎたあたりで知らない女の人にリナ、って名前を呼ばれて」
お祖母ちゃんは、立ち上がり、玄関の鍵を閉めると私の横に座りました。
「そしたら、そっくりだっていってきて…私の名札を見て…怖くなって、つい強い口調をしてしまったの。その女の人、それってお母さんのしつけ?って聞いてきて…」
無言で聞き入るお祖母ちゃんの方を見ると、何故か少し震えていました。
「それで、何か他に言われたの?」
「ううん。走って逃げてきちゃった」
「…そう」
お祖母ちゃんは俯いて沈黙し、何かを考えているような雰囲気でした。暫くすると顔を上げて、いつもの笑顔に戻り、
「じゃあ、私は夕食の支度をするから。出来たら呼ぶから、それまでに宿題を終わらせちゃいなさい」
チャーミングにウインクをして、台所と私の部屋を交互に指差しました。
「はぁい」
私は釈然としない侭、部屋へ入りました。
パタパタと台所へ向かうお祖母ちゃんのスリッパの音が遠くなってから、私はそっと本棚からママの小学校の卒業アルバムを開きました。パラパラとページを捲っていると、クラス毎の個人写真が現れました。皆、笑顔で、でも強制的な笑い顔のせいか、大笑いしている子やはにかんでいる子、様々な顔が並んでいます。そこに、私に似たような子がいたのです。薄く整った笑みをたたえた子が。私は驚いて写真の下に記された名前を見ると、『間宮アリサ』と…。私の名前は『間宮リナ』です。
(同じ名字?!)
思わず口にしてしまいそうになりました。伯母さんの名前は『ユウナ』、写真の女の子とも顔立ちも違います。わけがわからなくなって、勢い良くアルバムを閉じると本棚へ押し込みました。お祖母ちゃんに聞きたい…。お祖母ちゃんはママの名前を言ってくれた事はありません。いつも、写真を見ながら思い出話をするだけで…。
(あの女の子はママなんだよね…?)
混乱する頭の中は大海に現れた渦のよう。飲み込まれちゃいけない、と椅子に座り、ランドセルから宿題を取り出して机に広げました。
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