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俺は少年の名前を聞いていない事に気付く。
「おれはくがやまかける。きみのなまえは?」
少年はためらいながらも、口を開く。
「おれは……もみじ。つきくさもみじ」
この時の俺は、変わった名前だなぁ位にしか考えなかった。
「ふーんもみじかぁ。んじゃ、あのすべりだいまできょうそうだよ!」
走り出した俺の後ろを、もみじは遠慮がちに付いてくる。
「まってよう。くがやまくん」
立ち止まり、俺はもみじの言葉を打ち消すかの様に、言った。
「……かける」
「……え?」
もみじは疑問を抱いた表情を浮かべた。
俺は親友になろうって言ったのに、名字で呼ばれたのが嫌だったんだ。
「かけるでいいよ、もみじ!きょうからおれたち、しんゆうなんだから!」
「か……ける。かける!」
もみじは俺の名前を呼んだ。
瞳にはもう悲しみの色は無かった。
「いこう!もみじ」
「うん!」
俺たちは出会った。
それは優しく風が吹き、桜の花びらがふわり、と舞い散る春の日だった。
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