風薫る丘~ミルカ~

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「ああ!待って!」 お気に入りの帽子を拐われた君は、必死に必死に追いかけた 僕はと言えば、ほんの少しの間、何故だか呆けていたせいで、君を止めるのがワンテンポ遅れてしまった 「姫様!!」 僕の叫びは、風の音に消されて、君の耳には届かなかったみたいだ 君は、必死に必死に帽子を追いかけた 僕は、必死に必死に君を追いかけた ……何故だろう 走り行く君の後ろ姿を見ていると 胸が締め付けられて苦しくなる ……何故だろう 君を呼び、振り向いてくれない それだけで、呼吸が苦しくなる 何故なんだろう…… ……いや、そんな事を考えている時じゃない 「姫様、危ない!!」 僕は思い切り手を伸ばした 君は気付いていないけど 君の目の前には崖があった 僕は、必死に必死に手を伸ばした ガシッ 君が帽子を掴んだと同時に、僕は何とか君の手を掴む事が出来た 君の白く柔らかい手を、何とか掴む事が出来た 「きゃあ!」 君は危うく崖から落ちそうになっていた 僕は、グイッと君の手を引いた ドスン 勢い余って、僕たち2人は、草花の絨毯の上をゴロゴロと転がっていった ゴロゴロゴロゴロ… 抱き合いながら ゴロゴロゴロゴロ… ポスン 勢い収まり大の字になる僕たち、2人で見上げた青空は、まるで… まるで…
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