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パパだけの香りは私が大好きな匂い。
優しくて、温かくて───そう、まるで日溜まりにいるみたいな心地よさ。
ここにいるだけで普段ならすぐに眠くなるけど今日は平気。いっぱいお昼寝したし。
「ところで政基が見えないわね」
「まら山声さんと居るんじゃないれしょうか…」
「あれから結構経ってるのに…。どっちが性欲魔神なんだか」
パパのコップにお酒を追加しながらママは呟く。私にはまだわからないけど、性欲ってどんな感じなんだろう。私がパパを好きだと思うのに似てるのかな。
「それにしても神様は本当にいい女じゃのう」
「ち、ちょっと! 気安く触んないでよ! 私は零也くんので…」
「宴の席くらい無礼講ですぞ。ひょひょひょ…」
私の中でスイッチが入った。ママは私とパパの。パパは私とママの。私はパパとママのだ。それをこのおじいちゃんは…。
「ママにー…!」
と、私が文句を言いかけた瞬間。
「ふざけるなよ咲夜ぁ!」
「なんですか! だいたい私だってやりたくてやってるんじゃありませんよ!」
少し離れたところで咲夜ママと命ママが力を迸らせて怒鳴りあっている。いまだおじいちゃんはママに触っているし、なんかもう地獄絵図だ。
そんな中、私を抱きしめていたパパの手が緩んだ。
「………だ」
ゆらりと立ち上がったパパは小さくなにか言葉を口にした。
「だいたい命さんだって…!」
「なんだと!? もう一度いってみろ!」
向こうも激しさを増している。どうにか止めないと。
けれどどうしたらいいかわからずに困っている私のとなりで怒号が響いた。
「散葉は僕の恋人なんです! それ以上触ったら許さないっ!」
瞬間。
───────ぞくっ。
私の中で明らかな異常が起きた。あらゆる能力が、感覚機器が遮断された。
同じような変化は周りでも起こっていた。二人のママが放っていた力すらなくなっている。
「な、なんですか今の…」
「おい…変だぞ…力が使えない」
「え!? あ、本当です!?」
謎の現象を引き起こしたパパはそのまま───倒れてママに抱き留められた。
「…気絶してる。咲夜、部屋に連れて行くから濡れたタオルかなにか持ってきなさい! 命は果物!」
「いますぐに!」
「任せろ!」
走りゆくみんなを見ながら、私はぽつんと取り残されていた。
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