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「行く」
いやに早い返事のあと、シミ一つない頬を膨らませて散葉さんは僕を探るように見つめてきた。
「だって零也くん、どれくらい危ないか調べる気なんでしょ」
「え゛っ…。なんでわかったんですか」
「零也くんの性格上そうするんじゃないかってね。なーんで一人でやろうとするかな零也くんは!」
「あぅ…」
返す言葉もなかった。
全く以ってその通り。ほんの少し前に注意されたのに。
「おまけに今日はいつもと違って瑠璃波の監視下じゃないんだからね? わかってる?」
「すいません…」
「もうっ!」
口調厳しく、まだ怒鳴られると覚悟していると、予想外の感触が僕を包んだ。
「零也くんが同じことしたらまた同じだけ怒るからね。……まぁ、そういうところも好きなんだけどね」
「ひるひゃひゃん…」
すっごい飴とムチ。否定して肯定された。
非情に怒らないのが散葉さんの特徴だ。
「さて、じゃあ行ってみようか?」
「はい」
体を離して、僕たちは早朝の森に向かった。
☆
「昨日来たのはこの辺までですよね?」
「うん。探ってみるね?」
目を閉じて集中を始めた散葉さんの隣で、僕も正面に左手を伸ばしてみた。
散葉さん特製の指輪は受信率が高いから僕の能力を底上げしてくれる。
あとは集中。
百メートル、二百メートル。 三百メートル、四百メ─…
ぞわっ。
「っ!?」
「……ちょっと検討した方がいいかもね」
妖怪の霊力にしては異質な何かが僕の背中に悪寒を走らせた。禍々しくてこの世の全てを憎んでいるような───まるで雪山で暴走した散葉さんのような霊力。
一瞬でわかった。あれは危険だ。
でも、だからこそ。
「行かないとダメです。せめて確かめないと。危険なのかどうかを……ここは僕の親友の故郷ですから」
言ってからハッと気づく。
「散葉さん達は待っててください。僕が命先輩の霊力で雷の速度で──────」
「それ以上言ったら今この場で押し倒すからね」
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