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自分の力に絶対の自信があるのだろう。けれど、間違っているのだ。ここから感じるのは壁越しの霊力。
本当の力はその先に───。
「っ!?」
指輪をはめて一瞬。命先輩の膝が折れた。
「な、なんだこれは…」
へたり込んだ命先輩の指から指輪を抜きながら散葉さんは前を見据えた。
「多分、霊力を遮断する結界が張ってあるのよ。にも関わらず、遮断しきれなかった霊力が漏れてきてるのね。それでもこの邪気よ。危険さを再認識したかしら」
ごくり…と政基くんののどが鳴った。その音に混じって小さくカタカタとふるえる音がする。咲夜さんだ。
「咲夜さん!? 大丈夫ですか!?」
「あ…は、はい…」
嘘だ。
大丈夫なわけはない。咲夜さんの震え方は異常だった。
なんだか伝説を聞いてからの彼女はいつもと違う。
まるで細い糸で心を支えているように不安定で、弱々しい。
咲夜さんはいったいなにを知っているんだろう。
でも今はそんなことより。
「咲夜さん。無理はしないほうがいいです」
「むっ…無理なんか!」
「僕の目をごまかせるとでも?」
「…ですが…」
「確かに戦力的にはマイナスですけどいまのままじゃ咲夜さんが辛いだけです」
「……ダメです。今回は…逃げるわけには行かないんです…」
「咲夜さん…?」
僕の呼びかけには答えず、咲夜さんは何かを振り切るように頭を左右に振って、僕の後頭部に手を添えてきた。
「ちょっと咲夜。それしたら灰にするわ────」
何をするのか勘付いたらしく散葉さんが一歩踏み出す。
けれど何をする気で───。
僕の思考が追いつくより早く後頭部に回った手が引き寄せられて、咲夜さんの顔に近づいていく。
やばいと思った時にはもう、唇が触れていた。散葉さん以外には初めてだ。散葉さんのしっとり濡れたような柔らかさじゃなくて、弾けるような弾力が唇に伝わって来る。
驚きやらなにやらが頭をかき乱しているうちに咲夜さんは顔を離した。
「…えへへ…ファーストキスです。勇気をもらいましたからもう平気ですよ」
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