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零也の服を掴んでうぅ、うぅと咲夜は嗚咽を漏らした。小さな少女そのままに泣いていた。 我慢していたものが噴き出したのかもしれない。
「咲夜さん。あきらめる必要なんてないです」
「……でも……」
「そりゃ、今は愛人です。でもいつか僕のことが嫌いになるかもしれません。それで僕から離れていくかもしれません」
「そんなことっ────!」
「だから、それまではずっとそばにいてください」
「え…」
完璧に予想外だったのであろう。咲夜は固まった。咲夜が零也を嫌いになるはずはない。零也はわかってる。どんなことをしてしまったとしても咲夜はずっと側にいてくれる。うぬぼれなんかじゃない。六歳から自分を見ていてくれた咲夜のことだ。わからないはずはない。
だから、これは──。
「……うふふっ。零也さんは意外に欲張りさんです。恋人も愛人も手放さないなんて選択を実際にやっちゃうんですから」
「す、すいません…」
「いいんですよ。それに…私もそれがいいです。無理矢理に零也さんを奪ってあの人と喧嘩するのなんてまっぴらごめんですからね」
目尻に浮かぶ涙を拭いながら、咲夜はくすくすと笑った。
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