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☆
ごーん。ごーん。ごーん。
破壊力すらありそうな音を零也と咲夜は体に受けていた。
瑠璃波学園の生徒ならデートコースの締めにはこの時計塔を持ってくる。学園で一番、ロマンチックな場所だからだ。洋風の造りは夕日によく映える。
「はぁ~あ。終わっちゃいましたねぇ…」
あからさまに肩を落として咲夜は呟いた。苦笑しながら頭を撫でているとやはりこのデートの終わりを告げるのであろう着信音が鳴った。
携帯のサブディスプレイには『散葉』と出ている。よりいっそう顔を暗くする咲夜を見つつ零也は電話にでた。
「はい、零也です」
「はいはい!愛しのハニーだよ!今帰ってきたから零也くんも帰っておいで?」
「了解です。えっと…歩きでまだ時計塔のあたりなんで少しだけ遅くなります」
「わかった。じゃあ夕飯準備して待ってるね!」
元気一杯に応えて散葉は電話を切った。まだ沈んでいる咲夜の頭に乗っていた手を離して、今度は自分より小さな手を握る。
「帰りましょう?遅くなるって伝えたんで、多少ゆっくりでも平気です」
「零也さん…。そうですね。ゆっくり…帰りましょうか」
「はい」
言葉なく歩いて、少ししたところで咲夜が零也の頬に背伸びしてキスをしてイタズラが成功したような───今日一番の笑顔を浮かべる。
「今日は楽しかったです!またしましょうね、デート!」
「…ふふっ。はい、そのときは散葉さんもいるかもですけどね」
零也が言うと、「もう…」と言いながら咲夜も笑ってくれた。
これで安心した。
美味しい夕飯を楽しみに、零也は帰路につくのだった。
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