1.少年の独奏~ソロ~

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「他には買わなかったんですか?」 「ううん、買ったよ。さすがに全部コスプレじゃあね」  コスプレの自覚はあったんですか。でも、どうしたんだろう。いつもの散葉さんならファッションショーとか言って一着ずつ着てきそうなのに。 「でも私は力を使えないわけだし、ここで一気に見せちゃうと後の楽しみなくなっちゃうよ。だから、今日はこれだけ」 「そういうことですか。じゃあ明日からの楽しみが増えますね」 「別に明日からじゃなくてもいいんだよ?」 「え?」 「例えば、零也くんに今すぐめちゃくちゃにされたらお風呂に入るじゃない?そうしたら必然的に新しい服を着るから…」  またすぐにこういう風な話しに持っていこうとする。散葉さんの悪い癖だ。七海を抱っこしたまま、僕は散葉さんの隣を通り過ぎた。 「七海?今日の夕飯はなにかな」 「今日ー…?七海、わかんないー…さっきまでお昼寝しちゃってたからー…」 「酷いよ零也くん!いくらなんでも無視はないよ!」 「娘の前であんなこと言うからお仕置きしたんです」  じとーっと横目で見つめると慌てて目をそらした散葉さん。 「もう…。今日の夕飯はなんですか?七海もわからないって…」 「もう四月になるのに今日は結構寒いでしょ?だからしばらくは食べ納めになるであろうすき焼きにしてみたよ」 「すき焼きですか。確かに今日寒いですもんね。楽しみです。散葉さん特製のすき焼き」 「零也くんったら…すき焼きなんて誰が作っても同じだよ?」  散葉さんはこういうけれど、同じじゃない。散葉さんがくる前は市販のすき焼きのタレを使っていたのだけど、散葉さんはちゃんと最初から全部やってくれる。初めて食べたときはこんなに違うんだと驚いた。  ドアを開いてリビングに入ると、まだ机にはなにも出されていなかった。たしかにこれじゃあ七海が夕飯を知るのは無理だ。
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