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「他には買わなかったんですか?」
「ううん、買ったよ。さすがに全部コスプレじゃあね」
コスプレの自覚はあったんですか。でも、どうしたんだろう。いつもの散葉さんならファッションショーとか言って一着ずつ着てきそうなのに。
「でも私は力を使えないわけだし、ここで一気に見せちゃうと後の楽しみなくなっちゃうよ。だから、今日はこれだけ」
「そういうことですか。じゃあ明日からの楽しみが増えますね」
「別に明日からじゃなくてもいいんだよ?」
「え?」
「例えば、零也くんに今すぐめちゃくちゃにされたらお風呂に入るじゃない?そうしたら必然的に新しい服を着るから…」
またすぐにこういう風な話しに持っていこうとする。散葉さんの悪い癖だ。七海を抱っこしたまま、僕は散葉さんの隣を通り過ぎた。
「七海?今日の夕飯はなにかな」
「今日ー…?七海、わかんないー…さっきまでお昼寝しちゃってたからー…」
「酷いよ零也くん!いくらなんでも無視はないよ!」
「娘の前であんなこと言うからお仕置きしたんです」
じとーっと横目で見つめると慌てて目をそらした散葉さん。
「もう…。今日の夕飯はなんですか?七海もわからないって…」
「もう四月になるのに今日は結構寒いでしょ?だからしばらくは食べ納めになるであろうすき焼きにしてみたよ」
「すき焼きですか。確かに今日寒いですもんね。楽しみです。散葉さん特製のすき焼き」
「零也くんったら…すき焼きなんて誰が作っても同じだよ?」
散葉さんはこういうけれど、同じじゃない。散葉さんがくる前は市販のすき焼きのタレを使っていたのだけど、散葉さんはちゃんと最初から全部やってくれる。初めて食べたときはこんなに違うんだと驚いた。
ドアを開いてリビングに入ると、まだ机にはなにも出されていなかった。たしかにこれじゃあ七海が夕飯を知るのは無理だ。
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