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「七海七海。菓子パンマンの時間だよ」
「菓子パンマン…!」
菓子パンマンとは今巷のちっちゃい子に大人気の顔がパンで出来たヒーローの番組のこと。顔になんらかのダメージを負ったときの中身の飛び散り方がリアルなのが人気の秘訣だとか。 フェルマーの最終定理すら解ける我が家の三年生も例に漏れずハマっていた。
七海がテレビにかじり付くのを見てから僕はキッチンへ向かった。包丁や火を使ってないのを確認して、いつもはやらないけど後ろから抱きついてみた。
「きゃっ!?どうしたの零也くん」
「…本当はただ手伝いたかったんですけど…誘惑に負けちゃいました」
「今日はあんまり一緒に居られなかったからね。えへへ、零也くんってば私中毒」
甘い香りを堪能してから僕は散葉さんの横に回った。
「…みたいです。だから、そばにいてくださいね」
「れ、零也くんどうしたの?淋しかった?」
「咲夜さんが居てくれたから寂しくはなかったんですけど…会いたかったです」
休みをもらって早くも2ヶ月。その間ずっと一緒にいたからなのか、僕はすっかり散葉さん依存症──散葉さんが言う散葉中毒になっていた。
学校が始まったら、どうなっちゃうんだろう。
「えへへ、嬉しいな。最初は意地でも私を好きって言わなかった零也くんがいまはこんなに甘えてくれるんだもん」
ニコニコ笑いながら散葉さんは野菜をざるに並べていく。鍋はクッキングヒーターの上でくつくつと煮立っている。
僕の出番はなさそうだ。
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