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「零也くんも寂しかったら電話してね?すぐ帰ってくるから」
「大丈夫です。子供じゃないんですから」
「あれぇ?この前あそこで膝を抱えてたのは誰だっけぇ?」
「あぅ…!わざわざ七海の前で言わなくても!」
「わー!零也くんが怒った!七海、逃げるわよ!」
「わー…!」
明らかな棒読みで七海を煽って散葉はドアを開けた。
「行ってくるね!」
「もう…。いってらっしゃい。気をつけるんですよ、散葉」
一瞬だけびっくりした顔をしてから散葉は笑った。
「うんっ!」
開けるときとは打って変わって静かにドアは閉められた。嵐の後のような静けさが玄関に広がっていた。
「さて、僕は政基くんのところに行こうかな」
靴を履きかけて思い出す。
「洗い物がまだ途中だったっけ」
踵を返して台所に戻り、洗い物に手を伸ばす。しかし、その手はなにか目に見えない壁に阻まれて食器に触ることは出来なかった。
知っている。これは咲夜とか散葉が得意とする技法、結界だ。
「いつの間にこんなの張ったんだろう。…まさかここまでするとは…」
はぁ、とため息を一つ。どうせ零也には破れないし、破ったところでそんなことをしたらへそを曲げた散葉がどんなことを言い出すか見当もつかない。
諦めて政基の部屋に行くことにした。とは言っても大した手間じゃない。政基の部屋は零也の部屋の隣だからだ。
「山声さんがいたら諦めよう。邪魔しちゃ悪いよね」
零也なりに気を利かせようと決めてドアをノックしようとした瞬間。
「あんっ!」
「っ!?」
思わず手を引っ込めた。声質的には間違いなく政基の恋人の山声響だ。ただ、彼女の声とは思えないくらい甘えた声だった。
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