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「リクエストしていいですか?」
「G線上のアリアですね」
「わかっちゃいましたか」
苦笑しながら咲夜は椅子の下に作られている引き出しからバイオリンを取り出した。
「楽譜、いりますか?」
「多分平気です」
約三年ぶりに触ったバイオリンは不思議と手に馴染む。久々だけどこれならいけそうだ。
「では…」
すうっと息を吸って、演奏を始める。体に響く音が心地いい。この曲は咲夜の好きな曲で、何度も弾いたことがある。楽譜はまだ頭に残っていた。
バイオリンの旋律だけが支配するこの時間が好きで零也は咲夜に習っていた。こうして弾いていると昔の記憶が甦ってくる。
曲が終わり、零也はぺこりと頭を下げた。
「…零也さん」
真面目な顔をして名前を呼ぶから零也もかしこまって背筋を伸ばした。なにかいけないところがあったのだろうか。
「な、なんでしょうか?」
「抱いてください」
「………………………はい?」
「もう正直な話しメロメロなんですよ。バイオリンを弾いてるときの凛々しいお顔を見せられて黙っていられるほど私は人間ができてません」
だからっていきなりさっきの発言はないと思う。
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