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「え、えーっと…そういえば咲夜さんは最近弾いてないんですか?」
あまりこの手の会話を続けるといい方にはいかない。零也もこの半年で学習した。紅葉から桜に移り変わる時間をかけて零也はちょっぴり成長した。
「私…ですか?うーん、そうですねぇ。だいぶ弾いてないかと。零也さんの方がうまくなっちゃって教えられなくなってしまいましたし」
中等部でも部活をやっていなかった零也は咲夜が仕事をしているときもバイオリンに打ち込んでいた。もともと飲み込みが早いうえにわりと凝り性な零也の上達は目覚ましく、一年で咲夜を超えた。
「あ、じゃあ二人で弾けるのを探しませんか?図書室なら楽譜もあるでしょうし」
「休日の図書室に若い男女が二人きり…!行きましょう!」
…なんでいちいち目的を不純な方に歪めるのだろう。しかも咲夜、一応は校長なのに。
「…あれ?なんだか咲夜さんいつもと違いません?」
零也が首を傾げると小さな肩がぴくっと揺れた。
「わかりますか!香水を変えたんです!生徒の中にお香の聖霊が居まして、彼女に作ってもらったんです」
「やっぱりですか。いい香りです。桜……?」
「あ、あの…さすがにそんなに近くでくんくん嗅がれるのは恥ずかしいです…」
「わっ、すいません!」
気になってしまって無意識に咲夜の肩口に顔を近づけて匂いを嗅いでしまった。女性にたいして、少し配慮が足りなかった。
「ぁ…」
けれど、零也が慌てて離れると凄く小さな声で残念がった気がする。
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