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「どうしたの?」
「え? あ、ごめん」
思わず階段の前で立ち止まっていた。
そして、ふいに見上げる。
あの忌まわしい事件はここから始まったんだ……加田美咲、浜崎裕樹、松下紗理奈の三人を殺害した事件。
僕はなんでここに戻って来たんだろう……。
思い出に浸るには、まだ早い気がする……
「いやー、散々荒らされたよ」
いつの間にかオーナーが後ろに立っていた。
オーナーはあの夜と似たような服を着ていて、僕に事件当時の事を更に思い出させる。
「警察というのはアレだね。本当に失礼だね」
「何かあったんですか?」
「いやぁ、都会からわざわざ調べに来るっていうからね、全部の部屋を空けて――料理も結構奮発したのに、彼ら何したと思う? ねぇ? ねぇ? 」
オーナーが必死に訴えてくるので僕は思わず一歩退いた。
「調べてすぐ、とっとと帰ったんだよ!」
「ほぇ?」
「まったく……彼らは何をしに来たんだ!」
――捜査だろうに。
僕も本条さんも苦笑いを浮かべるしかなかった。
「ところで、さっきお客さんが食堂へ行きましたけど、よろしいんですか?」
と、本条さん。
「ん? ああ、陽子がいるからね」
「陽子?」
「妻だよ。私の」
「え!? 奥さんいたんですか?」
「うん。言ってなかったっけ?」
あまりに頼りないから今も独身だと思ってました――とはさすがに言えない。
「少しのあいだ距離をおいていてね。最近帰って来たんだ」
「へぇー、大変なんですね」
「あははは。まあね。――じゃ、僕は片付けがあるから」
オーナーはそう言って階段を上って行った。
「優しそうな人ね」
僕は素直に「うん」と頷く。
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