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もしあの時、僕が残したメモをオーナーが信じてくれていなかったら――と思うと背筋がゾッとする。 もしそうなっていれば、堀部さんはあのまま殺されていただろう。 そしてたぶん、僕もその後で遅かれ早かれ殺されていたはずだ。 だから、僕も堀部さんもオーナーを信用している。 まるで昔からよしみだったかのように―― ――食堂。 食堂には僕達を除いて六人の客が座っている。 金色のアクセサリーをじゃらじゃら付けた坊主の男性、絵に描いたようなおばちゃん、さっきのアベック? 二人、太った男性、それに眼鏡の男性。 みんな幸せそうに舌鼓を打っている。 「ねぇ、あの人が陽子さんかなぁ?」 本条さんの目線の先にいるのは、エプロン姿の女性。ブロンドの髪に白い花が付いたカチューシャをしている。 料理を運んでいるから、たぶん彼女が陽子さんだ。 「綺麗な人ね」 君の方が綺麗だよ――と言えれば、僕もモテてたはずだ。 二人して食堂の入り口に立っていると、そのカチューシャをした女性がこちらに気付いた。 慌ててこちらに来て、にっこりと笑顔を見せる。 「いらっしゃいませー。こちらへどうぞ」 席へと案内され、僕と本条さんは同じテーブルに腰を掛けた。 レトロ感漂う茶色い木製のテーブルには白いランチョンマットが敷かれている。 これだけでもお洒落に見えるのは、やはりオーナーのセンスが良い証拠だ。 「こちら、メニューとなります。ごゆっくりどうぞ」 グラスを配り、メニューを置くと一礼してそそくさとキッチンへ戻って行った。 きっと忙しいのだろう。 「思ったよりもお客さん多いね」 周りを見ながら本条さんは言った。 「そうだね」 あの日と同じ、落ち着きのある食堂。 浜崎さんが倒れていた辺りはさすがにリフォームされている。 あと、変わったところと言えれば――僕が一人じゃないってこと。
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