47人が本棚に入れています
本棚に追加
本条さんと初めて出会ったのは中学の頃。
入学式早々ベンツで現れた彼女に、生徒達は誰も話しかけなかった。いや――話しかけられなかったといった方が適切かもしれない。
本条さんは財閥の一人娘。
本当は僕みたいな平民には触れる事さえ許されないだろう。
でも、彼女はお金持ちだからといってそれを鼻に掛けたりはしない。
だからかもしれない、いつも一人ぼっちで教室の片隅にいる彼女が可哀想と思えてならなかったのは――
僕は思い切ってクラブに誘った。
彼女に文才があることを知ったのはそれからずっと先だ。
でも、好きだと気付いたのは――
「な、なにかな? 見られてると決め辛いよ――」
本条さんはメニューで少し顔を隠した。
「え!? あ、ああご、ごめん」
ずっと彼女の顔を見ていたことに気付き、恥ずかしくなる。
今日、二人きりでここへ来たのはお忍びデート――ではなく、文化祭に出す映画のネタ探しだ。
僕と本条さんが行くことに決まったのは彼女が脚本で僕が監督だから――たぶんそれだけだと思うが、駅まで見送りに来た部員のニヤニヤした顔を思い出すと、何か他にも指令を受けたような気もする。
「メニュー……決まったかな?」
「あ、うん。えーと……」
早く決めないと優柔不断な男だと思われる。
僕は慌ててメニューを開いた。
えーとなになに――
……カレーライス……ハヤシライス……ハッシュドビーフ……ビーフストロガノフ……ビーフシチュー……果たしてあのオーナーがこれらの見分けが付くのだろうか?
間違って持って来ることを少し期待しながらハヤシライスに決めた。
最初のコメントを投稿しよう!