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次に訪れたのは中央工房だった。
そこは地上五階建てのリベール一高い建物である。そしてまた地下にも階があるのだが、それは一般の者には知られていなかった。
中に入ると受付のカウンターには女性が一人、その右側にはセピスなどを加工する装置が置かれ、青年が一人仕事に追われていた。
「ここもあまり変わらないわね」
中を見回し、エステルがつぶやくのに対し、ヨシュアも「そうだね」と答える。
「十三工房からすれば、ここは小さな研究室の一つと変わらないけどね」
「ちょっと、レン!」
「本当のことよ、エステル。でも、ここの方が温かみを感じるわ」
結社の工房のことを言い出したレンに慌てたエステルだったが、その後に続いた言葉にほっとする。レンはこの工房にこれたことに喜んでいるように見えたからだった。
その後、他愛ない会話を交わしながら三人は受付の女性に声をかけた。
「すみません。工房長さんにお会いしたいんですが」
「アポイントをお取りですか?」
事務的な質問を受け付けの女性は言う。
「いえ。たまたまこちらに来たので取っていないのですが、無理ですか?」
「そうですか、少々お待ちください」
ヨシュアの言葉に頷いた女性は小型の通信機を取り出した。
最新式なのか、エステルたちには見たことのない代物だった。
それに暫くの間話しかけていた女性だったが、不意にエステルに名前を聞いた。
「失礼ですが、お名前を窺ってもよろしいでしょうか?」
「エステル・ブライトです」
機械に興味を持ちながらも、質問に応じたエステルは女性の手元に目を向けたまま答える。
受付の女性はエステルに聞いた名前をすぐに通信機に向けて言った。
更に二言三言言葉を返し、女性は通信機を元の場所に置いた。
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