水面-ミナモ

3/7
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
僕は部屋の窓を空けた。 冬の夜の空気は冷たくて,大きく吸い込むと肺がきしきしと軋むし,国道沿いの家だから車の騒がしい音が耳をついて苛立たせる。けれど,さえざえとした冷たい空気が部屋に蓄積した淀みを外に追い出してくれるような気がして,僕はいつも窓を開ける。 冷たくて鼻がツンと痛む。 喧騒が静かな部屋を包んで,下から聞こえていた,押し殺した,けれども激しい言い争いの声が少し聞こえにくくなった。 耳を塞いで押し入れに閉じこもったとしても事実にかわりはない。馬鹿馬鹿しいと思ってからは止めた。 ありがちなことだが,うちの両親は仲が悪い。 どうしてなのかとか,原因はどっちなのかとか,きっと親から言わせればいろいろとあるんだろう。だが僕から言わせればそんなことはどうだっていい。 こうやって夜中になると,どちらともなく言い合いになり,互いを罵りあう言葉が次第にエスカレートしていき,そして最後に母のあなたと結婚なんてするんじゃなかった,という言葉と共に机だか壁だかを叩く音で締め括られた。 ありがちなデキ婚で始まったこの結婚を呪う言葉は,そのまま僕の存在を怨むものに聞こえた。その声が苦しくて怖かったのも,もう遠い昔の話だ。 水中の中で外の声がかすみがかってよく聞き取れないみたいに,どこか痛んでいるけれど,はっきりどこかが分からない。自分のことなのに,まるで傷ついている心と意識が何かで隔てられているみたいに,実感がわかなくなってしまった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!