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穏やかで心地のよい風が彼女たちの長い髪を揺らす。
季節はもう春だ……。
雲ひとつ無い空。
天気は良好。
湿度も良好。
気分は上々。
耳障りの良い水の流れは、きっとこれが国語の教科書で一度だけ読んだことのある、せせらぎと呼ばれる音なのだろうと彼女らに認識させる。
川原の両岸には満開の桜の花。
これで隣を歩くのが友人で姉でもある和香(わか)じゃなくて、素敵な男の子とだったらよかったのに……。
そんなことを考えながら、スポーツバックを肩からぶら下げて笑う少女。
「ちょっと美空(みく)、何にやけてんの?なんか気持ち悪いんですけど」
目を細めながらそう言う和香の言葉を聞いた美空は、その顔に満面の笑みを浮かべながら言う。
「え、私にやけてた?ごめんねー、この満開の桜の木の下を一緒に歩いてるのが和香じゃなくて、素敵な男の子だったらよかったのにーって考えていたんだ」
そんな美空の言葉を聞いた和香は急に立ち止まり、両の頬を膨らませながら言った。
「あのね、それはこっちのセリフなんですけど。アタシだって美空じゃなく、出来れば素敵な彼氏とこの道を歩けたらどんなに楽しいかって丁度考えていたところなんですけどね」
そして2人は顔を見合わせて笑った。
「さ、早く行こう。電車が来ちゃうよ」
そう言って走り出す和香の後ろを追うように、美空も肩から下げていたスポーツバックを手に持ち直して走り出す。
もう直ぐ始まる高校生活。
姉妹、そして親友同士、同じ高校での学園生活。
全国中学女子陸上100m優勝の和香。
そして同じく走り高跳び優勝の美空。
2人の学園生活が、今始まる……。
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