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そして、彼はリビングダイニングキッチンの電気をつけた。
瞬間、よく片付けられた室内が照らし出される。
しかし、そこに修以外の人間は存在していなかった。整頓された食器棚にも、一人~二人用の最低限の食器しかない。
「あ~、だりぃ…」
そう言いながら彼は通学鞄をキッチンのテーブルに置き、ビニール袋を持って冷蔵庫の前へ移動する。
そして、ビニール袋を置いて冷蔵庫を開いた。その中も綺麗に整理されていたが、どうにも食材が少ない。
「よいしょ、っと」
彼は次々とスーパーの袋から食材を取り出し、冷蔵庫の所定の位置へ収めてゆく。
「野菜は野菜室だな」
そんなことを言っている内に、食材は全て冷蔵庫に収まった。
食材を片付けた修はカレンダーの前に移動し、1枚めくって5月のページを見た。
「ゴールデンウイークは田舎に帰るかな…」
そう、彼は『優れた教育を受ける』という大義名分のもと青森県からはるばる首都圏へと送り込まれ、絶賛一人暮らし中だったのだ。
翌朝、修は通学路をチャリで激走していた。
「やべぇ遅刻だ!!」
遅刻らしい。
それにしても、やる気のなさそうな表情で額に汗を浮かべながらチャリを激漕ぎする姿は恐ろしくシュールだ。
どうやら、彼はやる気がないのは表情だけで中身は至って熱い性格らしい。
しかも部屋の綺麗さから几帳面さも見て取れる。
つまり、彼の真の姿はダメ人間とは正反対のものだったのだ。
そんなこんなで激走しているうちに、彼はいつも遅刻ギリギリで登校してくる集団に追いつく。
「どぉおおおけぇええええ!!」
叫び声でその集団を散らしながら速度を緩めない修。
「うっわ危ね!」
「ふざけんなコラ!!」
そんな彼に対し怒声を浴びせるガラの悪い生徒たち。
まあ、蹴散らされた側としては当然の反応である。
「今のって、2組の『やる気ナシ夫』って言われてる梨尾じゃね?」
「ナシ夫もやる気出すんだな…」
まあ、とりあえず修はこんな扱いだった。
「おらあああああぁ!!」
梨尾修15歳独身、チャリごと駐輪場へダイブ。
チャリ数台を中破させながらも彼自身は無事であり、なんとか遅刻は免れた。
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