その1『いきなり撃沈!?』

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「8時30分!?やっべ、早く教室行かなきゃ!」 修は時間を確認すると勢い良く立ち上がり、2年2組の教室へダッシュした。 「はい、梨尾います!梨尾いまーす!」 ドアを開けて教室に入ると同時に遅刻してないアピールをしながら自分の座席へ向かう修。 辺りには目もくれず、一目散に席へ着く。 「はいはい、梨尾くんギリギリセーフ、と」 担任である若い女性教師は呆れたような笑いを浮かべながら出席簿を閉じた。 「お前が遅刻とか珍しいじゃん」 修が一息つくと、隣の席の隼人が声をかけてきた。 「昨日、一人で失恋パーティーしてたら夜更かししちまって…」 完璧なアホだ。 それには親友の隼人も呆れてもはやツッコミすらできない。 「ってかお前、よく告ったよな…。これから一年間、振られた張本人と同じクラスじゃん?」 そう、失恋した相手の沙有里と修は同じクラスだったのだ。 1年の頃から沙有里に憧れていた修は同じクラスになるや即行動を起こし、結果として電撃的な敗退を喫した。 「なんだ、文句あるか?」 「だって、1年間ずっと気まずい雰囲気で生活すんだよ?」 「あ…」 事実を認識した修の顔は、みるみるうちに青ざめていった。 そんな修だが、担任である小山 佳奈(彼氏募集中)の声で正気に戻る。 「はーい、忌引きで始業式からずっとお休みになってた間奥 綾菜さんが今日から登校してきました!みんな仲良くしてね」 そう言った後、彼女は紹介した女子生徒を立ち上がらせた。 その姿を見て修は椅子ごとひっくり返りそうになる。 「間奥 綾菜(まお あやな)です。よろしくお願いします」 小柄でスレンダーな体格。短いスカートからスラリと伸びる、ニーハイソックスに包まれた細い足。下手したら腰に届くのではと思うほどに長く明るい色の髪。 そして、常に不機嫌そうな表情ながらもとびきり美形な顔。 「あーっ!!今朝のチビ女!!」 そう、綾菜こそが修を一撃で廊下へ沈めたあの女子生徒であったのだ。 いきなりの叫びに反応した綾菜は声のした方向へ振り返る。 そして、修の顔を確認するなり…。 「そのやる気なさそ~な顔は…。あっ、今朝の変態ゴミムシ!」 そう言い放った。 と同時に、クラスが静まり返る。いきなり本性を表した綾菜に圧倒されたからだ。 「出た、やっぱりアイツは『魔王』だったんだ」 どこからともなくそんな声が響く。
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